【サボテン物語】4. それでも新世界は愛(かな)しいか

自分の世界を取り戻し始めた彼だったが、その世界には以前と同じような輝きがあったわけではなかった。明らかにサボテンと彼の間には以前より距離があった。

その距離とは、彼が経験した世の中への失望そのものだったが、それを埋める事を彼はしなかった。

 

「僕は盲目的にサボテンを愛することができなかった。自分さえ信じる事が出来なかった。僕は自分を素晴らしい人間だと思っていたが、全くそうではなかった。大切なものを簡単に見限ってしまうような浅はかで薄っぺらい人間だった。しかし、僕にはまだこれからも新しい世界を生きる事が許された。」

 

窓際の席、彼が静かに息を吸い込んだ時、彼の庭に置き去りにされていた最後のサボテンの命が終わりを告げたのだった。