【サボテン物語】3. 生きろ

「生きなければ、でもどうやって..?」彼はいつもその事を考えるようになった。

積み重なる日々は彼に何も与えてくれなかった。いや正確には、彼が自分が欲しい物を否定していたのだった。

 

書店に足を運び、「希望が開ける本」や「あなたは大丈夫」的な類の本を読んだが、そこには当然サボテンに対する記述はなく著者は何も分かっていないと彼は思った。

 

「僕にはサボテンより素晴らしく、皆から愛される何かが必要なのに誰もその事に触れていない。考え方を変えたところで、現実は変わらない。」

 

彼には時間が必要だったのだ。

 

一年が経ち一通り周囲の世の中を諦めた彼はなぜ世の中のすべての人がサボテンを必要としないか考えていた。それは同時に、なぜ彼が自然と惹かれていたのか考えるきっかけになった。

 

答えはシンプルだった、彼にとってサボテンは「生きる」事を象徴する存在だったのだ。

身を守り空気中から水を吸収する針、寒冷に強く砂漠でも生きていける姿に彼は自然に惹かれていたのだった。

 

「なんだ、こんな事だったのか…。きっと植物を愛する人は気づいていないくても同じように感じているんだろう。人間は特権的な立場で自分たち中心の世界を作っていくが、より自然的な何かに触れていないと途端に道を踏み外してしまう存在ではないだろうか?」

そう考え出してから、彼の世界は少しずつ明るくなった。

 

彼は自分の世界を取り戻し始めたのである。